サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「MELANCHOLY」

要するに冷めた訳だ

どんな秩序も

エントロピーの法則に従って

やがて崩壊に導かれていくものだから

別に不審には思わないよ

哀しくなんかないよ

涙は一つの生理現象であって

人格や内面とは関係がない

だから電話が切れないのも俺のせいじゃない

騒めく胸が

君との会話を引き延ばそうと

レジスタンスのように戦っている

 

秋雨の打つ窓辺の景色とか

そういういかにもセンチメンタルな風景のなかで

いろんな出来事を思い返す

手帳をめくるように

重なった記憶の感熱紙をめくってみる

過去に手懸りや根拠をさがしてみる

無駄な作業だってことは言われなくとも分かってるけど

それが未練という人間の習性なんだよ

どの分岐点で道を間違えたのか

どのインターチェンジで一般道に乗り換えるべきだったのか

探らないと気が済まないエゴイズム

君は電話だけで解決しようとした

インターネットで服を選んだり家電を選んだりするのと同じように

この関係に終止符を打とうとした

横着な女じゃないか

その怠慢な根性を

でも俺は愛していたのか

道化師のような哀れさで

 

新しいジャケットに着替えて

寒くなりはじめた街へ出かけよう

心変わりした君の面影を

雑踏のなかの女の子に重ねるのはやめよう

後ろ姿で騙されそうになるけど

あれは別の女の子だ

君が好んで着ていたのと同じようなデザインの服

同じような色あいの服

たとえば寒い時期は必ず黒いタイツをはく習慣とか

肩まで伸ばして流した黒髪とか

そういうスタイルの女の子が

雑踏のなかには複数形で存在している

だから俺は自分に言い聞かせる

君は

どこにでもいるような女に過ぎない

だから喪失を深く憂える必要なんかないのだと

君はひとつのカテゴリーに過ぎなかった

君には誇るべき明確な個性なんてなかった

二人の関係に

特権的な輝きなんて最初から存在しなかったんだ

 

ドラッグしてゴミ箱へ抛りこむように

二人の恋路をデリートします

寒風が身に染みるころ

俺は君と恋に落ちた季節を思い返し

あわてて消し忘れたファイルの断片を検索する

感傷を夏服のように脱ぎ捨てて

秋雨の街路へ踏み出すのだ

終わったことは終わったこと

古い日記は燃やしてしまえ

あなたが去った場所からいつまでも

動けないままでは

生んでくれた両親に申し訳がたたぬ

さようなら

古い日記の

燃え滓となったあなた

凩に舞う灰となって

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