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サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「永遠とよばれた午後」

永遠に続く

夏の日盛りの石段

蝉しぐれ

なまぬるい風とともに

ゆっくりと道の上を渡っていく

あなたの暮らす家は

夏の町並に

うずもれている

麦わら帽に

虹色のリボンを結わえた少女が

坂道を自転車で下っていく

開け放たれた縁側から

この夏の猛暑を嘆く

アナウンサーの声がきこえる

わたしは無言で坂道をのぼる

さまざまな過去と

すれちがうように歩く

 

わたしの喪服は

夏の光をおびただしく吸い込む

熱せられた鋼のように

わたしは黙って石段に耐える

流れる汗をぬぐいもせずに

小さな命の

不意の終わりを

悼むために

わたしの革靴は

日盛りの焼け爛れた石段を

何度も何度も

うめくように踏み締める

 

角を曲がり

教わった住所を探して

わたしの眼差しは

蝉しぐれの往来を行き交う

誰かが甲子園の中継を見ている

金属バットの音と

華やかな声援が

日盛りの路地に

こぼれている

しかし旱魃の

大地のように罅割れた

わたしの弱い心は

何も感じず

何も願わない

原爆で壊れた時計のように

わたしの心は

数えることをやめてしまった

悲しみは

数えることによっては癒やされないのだ

 

久しぶりに会ったあなたは

黒い留袖を着て

畳に座っていた

あなたの眼差しは

底知れぬ闇を見つめている

古びた借家の

座敷にさえ

蝉しぐれはざわざわと流れこむ

交差点で

大きな車にはねられ

小さな命は途絶えました

わたしが眼を離した

一瞬のあいだに

あの子は道路へ飛び出して

わけもわからず

血まみれの残骸となりました

大切なものから

眼を離してはいけない

見つめることを

やめてはいけない

あなたは立ち上がって

冷たい麦茶を

コップに注ぐ

 

小学校にあがったばかりの

小さな男の子の

真新しいランドセルが

部屋の片隅で息をひそめている

言葉が

急速に干からびていくのがわかる

祈りは

青空へ届くだろうか

純白の夏雲の彼方へ去った

あの子の幼い鼓膜を

ちゃんと揺らしてくれるだろうか

主を失ったランドセルは

夏の座敷の暗がりのなかで

わたしたちの会話に

耳をすましている

かすれた声と

とぼしい言葉で

織り上げられるひとつの祈り

突風にさらわれるように

あの子は地上から消えた

残されたわたしたちには

その靴痕だけが

生きるための

手がかりとなる

 

夏は今年も

何食わぬ顔で

この町を訪れる

二度と帰らないものたちの

痕跡が

道しるべのように

行く手を照らす

別れてからの年月が

この夏の

一瞬のまばゆさのなかで

静かに磨かれていく

 

永遠を

信じてはいけない

永遠を

望んでもいけない

どんな罪もあやまちも

時が洗いながすように

そもそもの間違いは

永遠という幻を信じたこと

この胸の苦しみは

永遠という

ありえない夢に

囚われたわたしの

躓いた指先の痛み

 

喪服の二人は

夏の風が吹き込む

狭苦しい座敷で

墓標のように息を殺している

夏は

永遠のような横顔で

何度もこの町を通りすぎる

何度もこの悲しみを

思いださせる

 

永遠とよばれた午後に

もう二度と

帰ることのない二人