サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「永春」

中学校の教室で

あなたを見てから

もう何年経つだろう

汚れた板張りの床

モップをすべらせながら

あなたの飛ばした冗談に

こころを掴まれたのはいつだろう

 

夏服のあなたは

白っぽいグラウンドにくっきりとした影を曳いて

サッカーボールを追いかける

開いたノートに数式をつづる指をとめて

わたしは見蕩れていた

そこにあふれる歓声と眩暈

あなたとわたしの思い出の折り目

 

高校に進んでも

わたしたちは一揃いの食器のようだった

白い縁に残ったコーヒーの黒いしみ

あなたは昔と変わらぬ夏服の少年

昔と変わらぬ笑顔のままで

 

卒業式の歌声

あなたは幼気な少年のように

恥も外聞もなく泣いていた

そのひたむきな涙をあたしは美しいとおもった

何も恥じることはない みがきぬかれたガラスのような悲しみ

トイレのタイル張りの床にクレンザーの粉をまいて

レモン石鹸をすべらせて

モップで即席のホッケーに興じるあなたの幼さを

その涙は雪の結晶のように飾っていたのだ

 

長い長い春のあとで

結ばれることを祈りながら

結ばれないままの二人の

記憶の最果てに

あの教室の景色がかくれている

わたしたちは思春期を脱しないまま

永遠のこどものように

この教室の片隅で鉛筆をにぎりしめている

欠けることのない鉛筆を

何も消せない消しゴム

測れないものを測ろうとする三角定規

わたしたちのこころの角度

愛情と時間の不確かな関数

どんな方程式でも括ることのできない

このもどかしさを

言葉にかえられないのかしら

想いを言葉にかえられないのかしら