詩作 「ADDICTIVE GIRL」
求めることに躍起な
麦わら帽子の少女
波間に揺れるヨットの明るい帆が
難破船の残骸のように
ふるえている
苦い薬を飲んだように
少女は険しい目つきで
私の裏切りをなじった
なぜ総てを受け容れてくれないのかと
なぜ完璧な肯定を与えてくれないのかと
怒りと哀しみで
彼女の眦は紅く染まっている
私は口ごもる
完璧な肯定
それに昔の私はあこがれた
その実在を信じて日々を生きた
それが手を伸ばしても
得られない幻想であることを悟って
私は新たな道を歩き出したのだ
涙をぬぐう顔は美しい
しかしその涙には
有害な成分がふくまれている
阿片の涙を
あなたはマスカラのように飾りつけて
満たされない孤独におびえている
胸を締めつけられるような想いには
私も覚えがあるけれど
その感情に明るい希望を授けてはならない
あなたの淋しさは
人間の淋しさだ
それを受け容れないのなら
あなたは人間である資格を剥奪される
淋しさは消去されるべきバグではない
それは私たちの生命に組み込まれた至上命令
孤独であることは
生きることの本質にまっすぐにつながっている
私を冷たい男と責めるあなたの
乾いた声には聞き覚えがある
かつてそれは別のひとから告げられた言葉で
そのとき私は地獄を這い回った
当たり前の日常から
汚水のあふれる己の魂の深みへ没した
それは投身自殺のような深刻な内省で
私は私自身のみにくさと対峙するために
多くの夜を用いた
私は私自身のみにくさのなかで窒息しそうだった
あの頃の私と今のあなたはどこか似ている
三面鏡のような
不気味な連鎖が
私たちの暮らす世界を閉て切ってしまう
あいがたりないあいがたりないあいがたりない
愛が足りない
酸素のように愛を欲するのは
酸欠のような淋しさに心臓をえぐられるのは
未熟であることの証明だ
自分に足りないものを相手に求めるばかりの
崩れた需給バランス
もっとあいしてもっとあいしてもっとあいして
わたしをひていしないで
否定してるんじゃないんだよ
責めてるんじゃないんだよ
きっと分からないと思うけど
幼いあなたにはきっと分からないと思うけど
コントロールされることを
拒む感情が
人間の平凡な生活を
塩酸のようにむしばむ
光がまっすぐに伸びていくように
あなたはまっすぐに私を求めて
得られないものを計え上げて
きっと絶望したんだろう
その絶望に共感できないとは言わない
見覚えのある風景
切実な荒廃
けれど私が譲っても
きっと際限がない
地獄の涯まで
同じ顔の悪魔がついてまわる
麦わら帽子の少女は嘆く
私の冷たい人格をうたがう
もっと大人になりなさい
しかし幼い少女をいくら諭しても
現実の経験が追いつかない限り
彼女は彼女自身を持て余すだろう
麦わら帽子が風に攫われるように
あなたは私との絆を断ち切って
空へ舞いあがった
完璧な肯定を求めて?
それは宇宙の最果てにあるのだろうか
何億光年も離れた闇の懐で
少女はそれに出逢えるのだろうか?