サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「高速道路」

宙に浮いた

オレンジの灯りが

連なる夜の風景

すばらしい速度で

無理にさらってしまうみたいに

タイヤが軋む

あなたの寝顔が

鋭いオレンジの

光の刃に

傷つけられる

それでも昏々と

眠りつづける

胎児のような

表情はゆるがない

 

江戸橋

汐留

浜崎橋

一ノ橋

三宅坂

神田橋

京橋

加速する夜の鼓動が

口もとまで

せりあがる

 

退屈な日常

日常とは退屈なものだ

かつて感じた劇しい愛情も

にじんだ白昼夢の腕のなかで

徐々に

くびり殺されていく

あなたはそれがいやだと言った

退屈な日常を拒んだ

退屈な幸福に

守られて眠る日々を

聞き分けのない少女のように

階段から蹴落とした

 

大橋

葛西

熊野町

板橋

堀切

小菅

江北

 

眠れない夜は

深い谷底のように

あなたを怯えさせる

オービスが闇夜の空に光る

逃げられないことを知らないあなた

退屈な日常は

足音もたてず

どこまでも

その痩せた背中を

追いかけてくる

 

入谷

羽田

荏原

用賀

高井戸

竹橋

美女木

高島平

三郷

加平

 

ハンドルが

見えない力に

ひきずられる

思い通りにいかないのは

二人の

錆びた関係だけじゃない

摩擦係数が

上がるほどに

あなたの笑顔はひきつっていく

それを止められぬまま

夜は更けていく

夜の深みに

はまっていく

 

両国

箱崎

辰巳

豊洲

東雲

芝浦

有明

昭和島

 

終点が見えない

黒いスモークを

透かしてのぞく未来

このまま

世界の涯まで

連れ去ってしまおうか

闇があなたの心を覆う

闇がふたりの行方を隠す

 

上野

目黒

渋谷

新宿

池袋

向島

小松川

深川

晴海

台場

眠れない夜はつづいていく

あなたの顔さえ思いだせない