詩作 「公民の時間」
手を挙げる
性欲が高まる
教科書のページが風にめくれる
あなたの肩のフリルが
夏の光のなかで揺れる
私たちの知らない世界は
この道の先にたくさんある
手を伸ばす
呼吸が弾む
あなたの唇が
滑らかにひらかれる
濡れた音をたてて
さびしいから好きになるのか
好きになったから
さびしさが融けて消えたのか
要するに愛していたいだけで
それでも噛み合わないことが多すぎて
そのうち初心を忘れて(初心忘るるべからず)
なんのために一緒にいるのか
理由が見えなくなって
だから物語は俄かに終わる
描けなくなった筋書き
最終回の作られなかった連続ドラマ
私はあなたの肉体の最も秘められた場所で
その温もりと潤みによって
絶頂に達した
白い液体があふれた
あなたの臍のくぼみに
それは溜まる
禿頭の哲学教授は分厚い書物をゆっくりとめくる
乾いた音をたてて
多感な時期という言葉
それが一生涯続けばいい
要するに一つになってしまいたいんだ
皮膚も骨格もこえて
混じり合って
いつも手をつないで
そんなの叶わぬ夢だと社会は嗤う
人生に通暁したような顔をして嗤う
人間と人間の壁をこえることは
不可能な挑戦だと
私は
聴こえないふりで
やりすごす
カーステレオから流れる感傷的な歌声
真昼の浜辺に
突き刺さる一本の古びた杭
倫理の教科書をめくる指先
あなたの名前をさがす午後の授業