サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

Cahier

Cahier(情念という怪物)

*感情というものは、非常に厄介な代物で、一種の寄生虫のような性質を持っている。宿主の意思とは裏腹に、それ自体の独特の原理に従って勝手に動き回り、理性の命令に容易く反抗し、直ぐに逃げ道を探し当てようと悪足掻きを繰り返す。 感情という生き物は無…

Cahier(渇愛・結婚・永遠性)

*恋愛の情熱ほど、結婚の論理に敵対的なものは他に存在しない。この命題は、様々な現代的誤解に彩られて、なかなか直視されずにいる。多くの人々は、結婚というものは恋愛の延長線上に存在していると素朴に信じ込んで、その素朴な信仰の秘められた実情を疑…

Cahier(新しい言葉・愚昧な凡夫)

*もう直ぐ二歳になる娘が猛烈な勢いで、どんどん新しい言葉を覚えていく。むしゃむしゃと白米を咀嚼するように、鼓膜に触れた単語や言い回しを次々に消化吸収している。そうやって刻々と彼女の瞳に映じる世界の風景は、新鮮な側面を万華鏡のように切り替え…

Cahier(蠍座・支配力・不都合な真実)

*たまに、所謂「星占い」という奴をスマホで検索して眺めてみたりすることがある。大抵、そういうときは、自分の身の上に何か入り組んだ問題が生じて、巧く方針を定められずに思い悩んでいるのが通例である。自分の頭では適切に答えを導き出せないものだか…

Cahier(三島由紀夫「禁色」・恋情・倫理)

*昨年の暮れから読み始めた三島由紀夫の『禁色』(新潮文庫)だが、丁度仕事の最も立て込む時期に重なった所為もあって、なかなかページを繰る手が捗らない。決してつまらない訳ではなく、底意地の悪い心理的解剖が丁寧に積み上げられて面白いのだが、やは…

Cahier(結婚の社会的機能)

*「結婚」という法的な選択肢を自らの人生に引き受けることの個人史的な背景や経緯は、実に様々である。往々にして、現代の日本人は「結婚」を「恋愛」の幸福な結論として捉える考え方に浸り切っている。それは確かに間違いではないし、「恋愛」から「結婚…

Cahier(契機と理由・潜在的なものと本質的なもの)

*或る現象が生じたときに、私たちはそれが生じた「きっかけ」や「理由」を探索し、特定しようと試みる場合がある。だが、これらの二つの観念、つまり「契機」と「理由」との間には、極めて抽象的な次元において、微妙な相違点を孕んでいるのではないかと考…

Cahier(愛情・依存・貢献)

*愛情と依存は本質的に異なった感情である筈だが、私たちは極めて容易に両者を混同してしまうし、感情だけの次元に脚光を浴びせてみれば、それほど決定的な差異が介在しているようには見えないのも事実である。 人間は生きていく上で実に様々な対象に向かっ…

Cahier(育てる者の責務)

*今期の新入社員が、今月一杯で他の店舗へ異動していく。後任の補充はない。四月に来年度の新入社員たちが配属されてくるまで、堪え忍びなさいという会社からの暗黙の御達しである。毎年の慣行なので、今更狼狽しようとは思わないが、そうした無理な人事異…

Cahier(往く年の挽歌)

*十二月も折り返しを過ぎて、師走の風は益々靴音を高鳴らせている。 もう直ぐ年に一度のクリスマスが到来する。地獄のような繁忙期、夜明け前から起き出して、寒風の吹き荒ぶ暗い路地を歩いて、そこだけ目映く見える静謐な京成電車へ乗り込んで、職場へ赴く…

Cahier(成長・記憶・苦痛・恥辱)

*最近、改めて「成長」ということに就いて考えることが増えた。 このように書き出すと、何となく典型的な自己啓発系の記事だと思い込まれてしまうかも知れないが、例えば「成長のための具体的で明確な方法論10箇条」みたいなことは、残念ながら書けないし…

Cahier(師走・宿命・軍曹)

*年の瀬で、何かと忙しい。師走ともなれば、小売業に携わる人間は皆、来る日も来る日もフロアを駆け回ることになる。靴紐が千切れるくらいに忙殺されて駆け回るのは、何も僧侶だけとは限らないのである。 正月休みを心待ちにして騒めいている世間の空気を、…

Cahier(繁忙期・「青の時代」)

*前回の更新から、思いの外、間が空いてしまった。 毎年、十一月の第三木曜日と定められているボジョレー・ヌーヴォーの解禁日辺りから、小売業の現場は俄かに忙しさを増し始める。特に百貨店は歳暮ギフトの早期割引で集客が上がり始めるし、十二月に入れば…

Cahier(「盗賊」・文体・「作品」という芸術的単位)

*三島由紀夫の作品を集中的に読破するという俄仕立ての計画は、今のところ生温い速度で進んでいる。「仮面の告白」「愛の渇き」を読み終えて、今は三島の処女長篇と定義されている「盗賊」(新潮文庫)をのんびりと繙読しているところである。 私は漠然と「…

Cahier(日常性・演技・滅亡・美学的理念)

*引き続き、三島由紀夫の「愛の渇き」(新潮文庫)を少しずつ読み進めている。 以前に書いた記事の中で、三島由紀夫の作品に表現された精神的形態を「演劇的メンタリティ」という言葉で括ってみた。私にとっても未だ、漠然とした概念に過ぎないのだが、良く…

Cahier(三島由紀夫・齟齬・仮装・心理)

*三島由紀夫の「仮面の告白」(新潮文庫)を先日読み終えたので、今は同じ作者の「愛の渇き」(同上)を繙読している。如何にも三島らしい、皮肉の利いた観念的な措辞が、じわじわと此方の精神に染み込んで来るような、苦い作品である。 「仮面の告白」は、…

Cahier(衆院選・開票・改革・パフォーマンス)

*先日、衆院選が行われ、当初は政権交代の可能性さえ謳われていた、小池百合子氏の率いる「希望の党」が大幅に失速し、解体した民進党の残党から生まれた、枝野氏の「立憲民主党」が予想外の健闘を見せた。だが何れにせよ、小池氏と前原氏の間で生じた思惑…

Cahier(期日前投票・パネルクイズ予選会)

*荒天の中、朝から期日前投票に出掛けた。花見川区役所まで、シーサイドバスに揺られていく。同乗者は誰もいない。鬱陶しい長雨が、羽織ったチャコールグレイのコートに少しずつ染み込んでいく。悪天候の休日にわざわざ、バスに揺られて区役所へ向かう物好…

Cahier(反復・学習・詩歌・単一性)

*子供は同じ遊びを執拗に繰り返すことを好む。一度気に入れば、無際限に同じ行為を反復して、嬉しそうに笑い声を立てるのが、小さな子供の普遍的な習性である。そうした行為に付き合わされる大人は、時にうんざりして溜息を吐きたくなるだろうが、子供にと…

Cahier(引き続き「ロリータ」・読書における一方的な信頼)

*先月からずっと、ウラジーミル・ナボコフの「ロリータ」を読み続けている。新潮文庫で漸く400ページの背中が見え始めた。ビアズレーという大学町での暮らしを引き払って、再び二人の壮大な逃避行が始まったところ、いよいよ本格的に不穏な臭気が漂い始…

Cahier(「正解主義」・誤答・恐怖・奴隷)

*自分の外部に絶対的な「正解」が予め存在していると信じ込む態度を指して、私は「正解主義」という用語を提案したいと思う。 正解主義者は、自分の内部に絶対的な規範や、譲れない信念というものを持たない。或いは、持っていても信じ切ることが出来ない。…

Cahier(方法・価値観・守破離・相転移)

*或る組織に属して労働に明け暮れる。年数が経ち、春が来る度に真新しい心身を携えた後輩が現れる。その繰り返しで、組織の新陳代謝のリズムは保たれ、旧弊な慣習にも徐々に罅割れが生じていく。 或いは、子供が生まれる。夫婦だけの静かな生活に、喜ばしい…

Cahier(三毒・懲罰への欲望・感情の制御・排除の論理)

*今日、と言っても日付が改まったので昨日の話ということになる。職場で少し腹立たしいトラブルがあり、久々に厳しい口調で通達を発した。些細なミスの積み重ねが生み出した状況に過ぎないことは確かである。私の指導と監督が不充分であったことも認める。…

Cahier(正義・愛情・無底性)

*随分と昔に書いた「『正義』と『愛情』は相容れない」という表題の記事が、何の因果か、この「サラダ坊主日記」の注目記事の欄に突如として姿を現し、数日間、その状態を維持している。表題だけは漠然と覚えていたが、どういう中身の文章を書いたのかは、…

Cahier(ラピュタ・宮崎駿・自然・人間)

*仕事を終えて十時過ぎに帰宅し、テレビの電源を入れると、金曜ロードショーで「天空の城ラピュタ」を放映しているところだった。 金曜ロードショーで、スタジオジブリのアニメ映画の再放送に出喰わすことは、少しも珍しい話ではない。子供の頃、母親がVH…

Cahier(解散・改革・希望・ポピュリズム)

*本日付で衆議院が解散した。総選挙の投開票が十月二十二日に設定されると共に、テレビ画面の向こうに広がる政治の世界は大荒れの様子だ。東京都の小池百合子知事が「希望の党」の代表に就任して結党会見を開き、離党者の続出でゾンビと化した民進党の前原…

Cahier(大人と子供・愛の飢渇)

*偶に自分の幼少期のことを思い出す。自分がどういう経緯を踏まえて現在の状況や人格に辿り着いたのか、その流れのようなものを時折、辿りたくなるのだ。それは必ずしも感傷に耽る為ではない。そういう側面が一切存在しないと言い張る積りはないが、その渦…

Cahier(ヨーロッパ・近代・小説)

*最近は専ら海外の小説を読むことに、乏しい読書の時間を充てるように意識している。ウラジーミル・ナボコフの「ロリータ」を舐めるようにちびちびと読み進めながら、日本語のみを理解し、一度も国境線を跨いだ経験を持たない、生粋の島国根性の持ち主とし…

Cahier(ロヒンギャ・人道的危機・世界宗教)

*夜の十時過ぎに仕事から帰宅して、夕食の仕度が整うのを待ちながら、普段と同じ習慣に則って「報道ステーション」を見ていたら、ミャンマーで起きた大規模な人道的災害に関するニュースが流れていた。ビルマ語を操る仏教徒が人口の大半を占めるミャンマー…

Cahier(高野山・空海・虚構性・他者の「無答責」)

*先日、珍しく土曜日に休暇を取り、母親と弟夫婦を自宅に招いた。夕方からは、地元の神社の祭礼があり、近くの通りは歩行者天国と化して、道に沿って一面に露店が軒を連ねた。台風の影響で弱々しい雨が降っていた。 子供を風呂に入れた後で、居間のソファに…