サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作

詩作 「ホテル」

雨が上がった後の 夜の駅前は 艶やかな光に満ちている 無数のタクシーが列を作り 夥しい数の人間が 好き勝手な方向へ歩いている 私たちは 手をつないで 光の隙間を狙って 忍び足で進んでいく 知り合いにみつかったら 気まずいからね 西船橋の夜は騒がしい だ…

詩作 「新世界より」

壊れものをあつかうように 優しく指先に神経をそそいで 大事に守って 今日まで辛うじて 綱渡りには失敗せずに 来たつもりでした けれど やはり運命には逆らえないのでしょうか 掌中の珠 という表現があります そうやって大切に慈しんだとしても FRAGILEとい…

詩作 「削除しますか」

削除しますか(はい・いいえ) 躊躇は あなたを不幸にしますよ 過去は過去 あなたはいつまでも思い出を大事に抱きしめて その香りに顔を埋めているけれど 過去は過去 過ぎ去ったものたちは すでに命をもたない 振り返ることは あなたを不幸にしますよ 履歴を…

詩作 「勿忘草の歌」

若草の萌える平原 緩やかに流れる風の音 私たちは絶えず この大地と共に暮らしてきた この草原を渡る風の歌と共に 私たちの喜怒哀楽は 記憶の箱舟として 川面を漂いつづける 手をつないで 私たちは多くの街角を歩いた すべての街路には 思い出があり なにか…

詩作 「カッターナイフ」

それは無駄な 悪あがきというやつで 私はいつまでも 携帯が青く光るのを 唇をかんで待っている 鳴らない電話に 不意に光りと音が よみがえるのを 私は平凡な生活の 様々な場面で待っている あきらめられない魂が この胸の奥に いつまでも熱い光りをたたえて…

詩作 「国境線の突破」

金網越しに まぶしい太陽が見える 熱い風がカラダを包んではなさない 喉が渇いて死にそうだ 記憶が飛びそうだ この国境線の金網が いつまで経っても俺とあいつを隔て続けるんだ 車は大破してゴミの塊だ 眠れない夜はマリファナタバコが肺を焦がす ハンドルを…

詩作 「ワット・オーム・ボルト・アンペア」

稲妻がひらめく 暗い夕空を鉤裂きに 光りが渡る 突然の雨に慌てふためいて あなたは軒先に隠れる 何を売っているのだか知れない 個人商店の雨樋のおと 都会の孤独は深刻だ あなたはいつまでもそれに慣れることができない 迷宮のような地下鉄を乗り換えるとき…

詩作 「幸福な星の物語」

好きであることは 様々な苦しみを呼び寄せる 魔法のようなもので 私たちは時にその変動に戸惑う (好きであることは我々を混迷に導く) 私たちの感情は常に劇しいアップダウンをくりかえす 「さよなら」と「離れたくない」の はざまで 私たちは透明に呼吸し…

詩作 「スイッチ」

責めても無駄でしょう 誰かがそれに触れたのですから ブレーカーが落ちるように 使用量が容量を超えたのです あふれだしてしまったのです 覆水 盆に返らず 掌を返したように あなたは顔を背けます その横顔に 水銀灯の光がにじむ 心変わりという 美しい言葉 …

詩作 「親子」

それは 互いに分かり合えないものを指す 隠語です 憎しみの類義語です 友情の対義語です 友人はとりかえられる(しかも随意に) 腐れ縁は途切れない 古いゴムホースみたいに 民法的規定にこだわり続ける(旧弊) 女は捨てられるが(きちんと謄本に×がつく) …

詩作 「声が聴きたくて」

さびしいという言葉が 何故あるのか さびしいという感情が 何故あるのか ときに私たちは見失う 重力が 世界を地上に繋ぎとめるように 何かが私たちを 引き寄せあい 遠ざかることを禁じる さびしさの痛みが 胸の奥をえぐるとき 私たちは世界から浮き上がり 月…

詩作 「咆哮」

そのとき 不意に電車がとまり 私は世界の裂け目を 覗いたような気がした 普段と変わらぬ 午後の景色のなかに 変化が訪れた 線路は軋み 緊急の放送があらゆる場所で 白目をむいて 奏でられた 地球はいよいよ 終わりを迎えるのだろうか 電車の扉が開くまで時間…

詩作 「八月六日」

夏でした 地面には 陽炎が揺らぎ 私の自転車は じりじりと焼けて熱く 空は青く 何も過不足のない 輝くような夏の一日でした 空が不意に光り 熱い風が劇しい怒りのように 大地へ落下した 私はそのとき九つの少女で 私の自転車は買ってもらったばかりの 眩しい…

詩作 「悪意」

黄昏の校庭に 人影は乏しい 見捨てられた景色 見捨てられた時間 そして 見捨てられた私へ 熱いシャワーのように 降りそそぐ悪意 カッターナイフは スカートを切り裂く為のものではありません 絵の具は ブラウスを汚す為のものではありません 携帯のカメラは …

詩作 「苦しさの涯で」

テールランプが 紅くにじむ 喫茶店のガラスが 曇っている 待ち合わせの時刻の 少し前に プラットホームへ滑りこんだ電車の音が 天井を隔てて 伝わってくる わたしの胸は 予感にふるえる あなたの笑顔を 真新しいキャンバスに 美しく描きだす 逢いたいのは 虚…

詩作 「グレーゾーン」

夕闇は 音を立てない 無言で 一日の終わりの 疲弊のなかに 人々を佇ませる 昨夜 交わした約束は たちまち裏切られる 灰色の関係 灰色の距離 あなたは指折り数えている 幸福な未来が その小さな掌に 触れる瞬間までの 時間の長さ わたしは 一日の終わりの 疲…

詩作 「駅」

電車が 風を巻いてはしりこむ 線路からホームへ 舞い上がる冬の風と 人々のざわめき 夜は一目散に 闇へ溶けていく まだ帰りたくない まだ離したくない つないだ手を からめた指を まだ今は ほどきたくない 秒針が回る 黙々と 残酷に それまで他愛のない会話…

詩作 「しらない世界」

海原は 最果てをしらなかった どこまで 突き進んでも 終着駅は見つからない 明け方まで 浜辺で火を焚いて 酒を浴びていた 車座の男たちも 不意に遠い眼差しで 夜空を見上げた 北極星を 確かめるために あなたの本心が どの波間に揺れているのか 誰もしらない…

詩作 「秘密」

夜の闇に まぎれて すべて隠してしまいましょう 深夜の駅前の道を わたしもあなたも 靴音を殺して歩く 野良猫が 無数の敵意に身構えるように 露見することを おそれて わたしたちは綱渡りのように 夜の暗がりに爪先立つ 秘められた 感情が 少しずつ ビーカー…

詩作 「所有」

長雨に煙る空 遠くに光る ビルの赤いランプ 十一月の街は少しずつ冷えていく こころが少しずつ冷えるように 愛することと 支配することの間に 見いだせなくなった距離を 探し求めて 動く指先 誰かを所有すること 愛しいあなたを所有すること 所有することで …

詩作 「いいえ」

いいえ、それは星ではありません それは夏草の葉叢で生まれた若い蛍火 いいえ、それは風ではありません それは夕暮れの家路を歩くあなたが 一日の労働を終えた溜息の音 いいえ、それは答えではありません それは連綿と続く暮らしのなかで あなたへの関心をか…

街衢十句

一 春の雪 生まれ変わりは どの赤児 二 夕暮れに 燃え立つ祈り 金閣寺 三 淡墨の 空染み渡る 蝉の庭 四 記録から 貴女の名前 除かれる 五 殷々と 弔鐘の打つ 港町 六 鎹の 積りで生まれ 父なし子 七 親不知 抜き差しならぬ 血の因果 八 空騒ぎ 繰り返しつつ …

暗夜十句

一 野良犬が 虹を眺めて 溝攫い 二 年の差の 数だけ鳩を 撃ち殺す 三 虫の声 眠る私の 膝枕 四 卒塔婆に 似て束ねられ 蛍光管 五 風の坂 駆け下りゆく 夏至の街 六 静けさの 内側に降る 火矢と雪 七 興醒めの 途中で気づく 雪月花 八 お前には 何も言わない …

房総十句

一 真夏日の 船橋を往く 三輪車 二 亥鼻の 木蔭に犬が ひとやすみ 三 空き缶を 蹴飛ばした音 京成線 四 武蔵野線 途中で不意に 宙返り 五 嘶きが 空を断ち割り 皐月賞 六 海原に 漁火の咲く 鴨川港 七 隣人の 鞄を盗み 松戸駅 八 白々と 冴える金筒 千葉みな…

夏色十句

一 ベランダに 蛍火が飛ぶ 死期を待つ 二 壊れたら 買い替えるだけ 夏の闇 三 簪が 落ちていました 路地裏に 四 三毛猫が 必死に駆ける 警報機 五 踏み切りの 風吹き渡る 通学路 六 紫陽花が 腐れていくよ 登校日 七 純白の 海岸線に 水死体 八 夏休み 午後…

愛憎十句

一 此間は ご馳走様と 恋敵 ニ 五月雨や 小野妹子の 墓探す 三 墓前には 菊花聖書と 賀茂泉 四 さようなら 雨降り小径 青蛙 五 淫乱な 夜更けが迫る 塩含嗽 六 樹皮を剥ぎ 生成りの肌に 辞世の句 七 もう二度と 逢わないはずだ 靴を履く 八 新聞に 嘘つきが…

勤人十句

一 終電の 光を浴びる 瓶麦酒 二 昨夜から 下痢のとまらぬ 失業者 三 函入りの 娘が家を 出て十年 四 保険屋に 脅され屋根の 修理する 五 陰惨な 記憶と共に 夏の月 六 淋しいと 言われて肩を 叩かれて 七 作業着に 口紅ひとつ 闇ふたつ 八 落雷の 間際の駅…

詩作 「帰り道」

秋は深まる 刻一刻 風のなかで冷えていくあなたの頬が 秋の光りに染められて 夕闇は冴え渡って 思わず手を伸ばす 芯から冷えた あなたの頬 子どものように 幼い唇 誰もいない公園に 夕陽が射す 無人のブランコが 木枯らしに揺れる 知らない間に ずいぶん遠く…

詩作 「世界の終わり」

地平線が 燃える 火柱を あげるように 夕陽が没する 壮麗な音楽のように 世界が騒ぎだす もうすぐ なにもかも終わってしまうよ なにもかも 更地に戻ってしまうよ わたしたちは 一斉に 耳をふさいだ 聞きたくない音をすべて 拒んできたわたしたちの 罪なので…

詩作 「クランベリー」

懐かしい歌が 窓辺から聞こえる 古びたラジオ 手入れの行き届いた庭 わたしは目を覚ます 朝が来る 幸福な記憶を 手帳のようにめくる 本棚に囲まれた明るい部屋 そこでは静寂だけが暮らしている 時を刻む音に 名前も知らない鳥の声がまじる わたしは歯を磨き …